レクイエム


山下は驚愕した。
気がつくと、またしても彼らの死骸を見つけたからである。
まるで悪夢を見ているようだった。日を追うごとに一人、また一人と彼らは消えていった。

「死ぬな、私を残して死なないでくれ!」

山下は叫んだ。しかし、すでにこと切れていた。もはや彼らにはその言葉は届かない。
がっくりと肩を落とし、山下は悲しみにくれた。
山下は彼らを白い毛布でそっと包んだ。死んだ彼らは燃やされるだけだ。
だが、山下はどうしても彼らを葬ることができなかった。

「あんなに元気だったのに……」

しばらくの間、山下はしゃがみ込んで彼らを眺めていた。
そして深いため息をついた。やがて立ち上がると、意を決して彼らを投げ入れた。
あとにはむなしさだけが残った。
「どうして大切にすればするほど、彼らは死に行くのだろうか」
山下は自分の運命を呪った。いや、むしろ自分の遺伝子さえ、先祖さえも。
ふと、生き残っている彼らに目を向けた。やはり以前に比べ、大分数が減っていた。
悲しい現実を目の当たりにした山下は、再び深いため息をついた。
もう、山下には時間がない。
いっそ、潔く諦めてしまったほうが楽なのかもしれない。
だが、山下の胸に去来する輝かしい過去を忘れることが出来なかった。すがりつきたかった。
出来ることなら、あの頃に戻りたいと思った。しかし、それが果敢ない夢であることは十分過ぎるほど理解していた。
決断の時が迫っていた。山下は真夜中に一人、悩んでいた。 方法はいくらでもある。そのなかでも出来れば誰にも知られないようにしたいものだ、特に身内には。
一晩悩みぬいた末、ついに山下の決心は固まった。
たどり着いた結論としては、まず生き残っている彼らを守り抜くことを最優先にしようということだった。
朝日が昇ってから五時間後のこと。
決意に満ちた目で山下は我が家を後にした。向かった先は近所のドラッグストアだった。
店に入ると一直線に、医薬品の某発毛促進剤を手に取った……。

その頃、山下の家の居間で高校生の娘と小学生になる息子がくつろいでいた。

「ねえ、お姉ちゃん。お父さん、最近変じゃない?」

「……大分悩んでいるみたいよ、抜け毛」





戻る